63歳の女性。結腸癌のため開腹手術が予定されている。
現病歴:2か月前に受けた健診で貧血と便潜血反応陽性とを指摘された。2週間前の下部消化管内視鏡検査で上行結腸に腫瘤を認め、生検で大腸癌と診断された。胸腹部 CT で転移を認めなかった。上行結腸切除術が予定されている。労作時の息切れや胸部圧迫感、動悸、腹痛、便秘、下痢および体重減少を認めない。
既往歴:45 歳ごろから、高血圧症と糖尿病のため内服治療中。
生活歴:営業職で外回りをしている。ゴルフが趣味で現在も続けている。喫煙は 20 本/日を 40 年間。飲酒は機会飲酒。
家族歴:父親が心筋梗塞で死亡。母親が胃癌で死亡。
現症:意識は清明。身長 155 cm、体重 62 kg。体温 36.2 ℃。脈拍 84/分、整。血圧 154/84 mmHg。呼吸数 18/分。SpO2 96 %(room air)。眼瞼結膜は貧血様であり、眼球結膜に黄染を認めない。表在リンパ節を触知しない。頸静脈の怒張を認めない。頸部で血管雑音を聴取しない。胸骨右縁第肋間にてⅢ/Ⅵの収縮期駆出性雑音を聴取する。呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。下腿に浮腫を認めない。神経学的所見に異常を認めない。
検査所見:尿所見:蛋白 1+、糖 (-)。血液所見:赤血球 410 万、Hb 10.8 g/dL、Ht 34 %、白血球 6,400、血小板 24 万、PT-INR 1.0(基準 0.9〜1.1)。血液生化学所見:総蛋白 7.0 g/dL、アルブミン 4.0 g/dL、総ビリルビン 0.3 mg/dL、 AST 26 U/L、ALT 32 U/L、尿素窒素 24 mg/dL、クレアチニン 1.0 mg/dL、血糖 116 mg/dL、HbA1c 6.6 %(基準 4.6〜6.2)、総コレステロール 204 mg/dL、トリグリセリド 180 mg/dL、HDL コレステロール 46 mg/dL、Na 138 mEq/L、K 4.4 mEq/L、Cl 102 mEq/L。CRP 0.3 mg/dL。胸部エックス線写真と心電図とに異常を認めない。
術前検査として行うべきなのはどれか。2つ選べ。
a. 頭部 MRI
b. 心エコー検査
c. 呼吸機能検査
d. 運動負荷心電図
e. 75 g 経口グルコース負荷試験
a. 頭部MRI:頭蓋内疾患を疑う所見なし。術前にルーチンでする検査でなし。
b. 心臓超音波:収縮期雑音を聴取するため大動脈弁狭窄症の可能性あり。大動脈弁狭窄症患者の全身麻酔のリスクは高い。
c. 呼吸機能検査:全身麻酔前には、基本的にルーチンで行う。
d. 運動負荷心電図:狭心症を疑う所見なく、ルーチンで行うものではない。
e. 75g経口グルコース:糖尿病診断時の検査。術前にするものではない。
手術室入室後、皮膚切開までの間に行うべきなのはどれか。2つ選べ。
a. 剃毛
b. 抗菌薬投与
c. タイムアウト
d. 肺動脈カテーテル挿入
e. インフォームド・コンセント取得
ポリクリしてれば解ける問題。
a.剃毛が必要な場合は入室前に行う。
b.抗菌薬投与:正解。
c.タイムアウト:術式、患者名、執刀メンバー、予定時間、予定出血量等を確認する。術前の儀式。
d.肺動脈カテーテル:循環器疾患のリスクがある患者には使う。
e.インフォームドコンセント:入室前にする。
手術後の経過:手術は問題なく終了した。術後4日目早朝の体温は 37.5 ℃であった。意識は清明。脈拍 88/分、整。血圧 124/70 mmHg。呼吸数 20/分。SpO2 96 %(room air)。呼吸音に異常を認めない。腹部に圧痛を認めない。手術創周囲に発赤と腫脹とを認めない。肋骨脊柱角に叩打痛を認めない。時間後に再測定したところ、体温は 37.0 ℃であった。術後4日目の朝の血液検査では、Hb 9.4 g/dL、 白血球 6,800、CRP 1.7 mg/dL であった。胸部エックス線写真で異常を認めない。
この時点での対応として適切なのはどれか。
a. カルバペネム系抗菌薬投与
b. 下部消化管内視鏡検査
c. 試験開腹手術
d. 全身CT
e. 経過観察
特に問題ない経過。