78歳の男性。呼吸困難と下腿浮腫とを主訴に来院した。

現病歴:心不全、心筋梗塞および高血圧症にて自宅近くの診療所に通院中であった。2か月前から階段を上がる際に胸部の違和感を覚えるようになった。1か月前から歩行時の呼吸困難と下腿浮腫とを自覚するようになった。呼吸困難は徐々に悪化し、10mさえも歩くことが困難になり受診した。

既往歴:65歳から高血圧症。75歳時に心筋梗塞にて経皮的冠動脈形成術(薬剤溶出性ステント留置)。76歳から心不全。アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、β遮断薬、ループ利尿薬、HMG-CoA還元酵素阻害薬、アスピリン及びチエノピリジン系抗血小板薬を処方されている。

生活歴:喫煙は70歳まで20本/日を50年間。飲酒は機会飲酒。

家族歴:父親は脳出血で死亡。母親は胃癌で死亡。

現症:意識は清明。身長 154 cm、体重 58 kg(1か月で 3kg増加)。体温 36.3 ℃。脈拍 96/分、整。血圧 156/86 mmHg。呼吸数 24/分。SpO2 96%(鼻カニューラ 2L/分酸素投与下)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。頸静脈の怒張を認める。頸部血管雑音を聴取しない。胸部の聴診でⅢ音とⅣ音とを聴取する。心雑音を聴取しない。呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。両側の下腿に浮腫を認める。

検査所見:尿所見:蛋白(-)、糖(-)、沈渣に白血球を認めない。血液所見:赤血球 412万、Hb. 13.8 g/dL、Ht 42%、白血球 6,500(桿状核好中球 30%、分葉核好中球 40%、好酸球 1%、好塩基球 1%、単球 6%、リンパ球 22%)、血小板19万、Dダイマー 0.6 μg/dL(基準1.0以下)。血液生化学所見:総蛋白 6.5 g/dL、アルブミン 3.8 g/dL、総ビリルビン 1.1 mg/dL、AST 36 IU/L、ALT 39 IU/L、LD 352 IU/L(基準 176~353)、ALP 153 IU/L(基準 115~359)、CK 156 IU/L(基準 30~140)、尿素窒素 21 mg/dL、クレアチニン 0.9 mg/dL、血糖 114 mg/dL、HbA1c. 5.7%(基準4.2~6.2)、総コレステロール 139 mg/dL、トリグリセリド 77 mg/dL、HDLコレステロール 53 mg/dL、Na. 137 mEq/L、K 4.7 mEq/L、Cl 104 mEq/L、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP) 840 pg/mL(基準 18.4以下)。CRP 0.2 mg/dL。心筋トロポニンT迅速検査は陰性。心電図は心拍数 98/分の洞調律で、不完全右脚ブロックを認める。胸部エックス線写真で心胸郭比は58%であり、肺血管陰影の増強と右肋骨横隔膜角の鈍化とを認める。心エコーで左室駆出率は 34%で、びまん性に左室の壁運動低下を認める。


今回の病状悪化の原因を推論する上で重要な情報はどれか。

a. アレルギー歴

b. 予防接種歴

c. 経済状況

d. 服薬状況

e. 職業歴

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入院後の経過:入院し適切な治療を行ったところ徐々に病状は改善し、入院3日目には、酸素投与を中止し内服薬をすべて再開した。入院5日目の夜、トイレに行こうとしてベッドサイドで転倒した。意識は清明。体温36.8℃。脈拍88/分、整。血圧138/84mmHg。呼吸数18/分。SpO2 96%(room air)。大腿骨エックス線写真と腰椎エックス線写真で骨折を認めない。頭部CTで異常を認めない。

対応として適切なのはどれか。

a. 身体拘束

b. 尿道カテーテル留置

c. ビスホスホネート製剤の投与

d. 病院医療安全対策部門への報告

e. ベンゾジアゼピン系睡眠薬の投与

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その後の経過:入院10日目の昼ころから、心窩部に軽い痛みを感じるようになった。翌朝、黒色便が出現した。意識は清明。体温 36.6 ℃。脈拍 100/分、整。血圧 98/56 mmHg。呼吸数 20/分。SpO2 97%(room air)。

対応として適切でないのはどれか。

a. アスピリンの中断

b. ビタミンKの静注

c. 上部消化管内視鏡検査

d. プロトンポンプ阻害薬の投与

e. チエノピリジン系抗血小板薬の中断

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問題解説・システム開発 : 内科医 米澤昌紘(れく)