35歳の女性。左上下肢の脱力のため夫に連れられて来院した。
現病歴:3年前に複視を自覚したが、疲れ目と考え様子をみたところ、数日で自然軽快した。1年前に右眼のかすみを自覚して自宅近くの眼科診療所を受診したが、眼底検査に異常なく約2週間で軽快した。2日前に左下肢、引き続いて左上肢の脱力を自覚した。本日、歩行も困難になったため受診した。
既往歴:特記すべきことはない。
生活歴:事務職。会社員の夫と人暮らしで子どもはいない。喫煙歴と飲酒歴はない。
家族歴:特記すべきことはない。
現症:意識は清明。身長 156 cm、体重 50 kg。体温 36.5 ℃。脈拍 64/分、整。血圧 126/68 mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。視力は右 0.4(0.8× -1.5 D)、左 0.6(1.2× -1.0 D)。他の脳神経に異常を認めない。四肢筋力は、右側は正常、左側は徒手筋力テストで3〜4の筋力低下を認める。腱反射は左上下肢で亢進し、左 Babinski 徴候が陽性である。自覚的に左半身のしびれ感を訴えるが、温痛覚、振動覚および関節位置覚は左右差を認めない。
検査所見:尿所見:蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)。血液所見:赤血球 468 万、Hb 13.9 g/dL、Ht 42 %、白血球 5,300、血小板 21 万、PT-INR 1.0 (基準 0.9〜1.1)、APTT 31.4 秒(基準対照 32.2)。血液生化学所見:総蛋白 7.5 g/dL、アルブミン 3.9 g/dL、IgG 1,424 mg/dL (基準 960〜1,960)、総ビリルビン 0.9 mg/dL、直接ビリルビン 0.2 mg/dL、AST 28 U/L、ALT 16 U/L、LD 177 U/L (基準 176〜353)、ALP 233 U/L (基準 115〜359)、γ-GTP 32 U/L (基準 8〜50)、CK 72 U/L (基準 30〜140)、尿素窒素 12 mg/dL、クレアチニン 0.6 mg/dL、血糖 98 mg/dL、Na 140 mEq/L、K 4.4 mEq/L、Cl 97 mEq/L。免疫血清学所見:CRP 0.3 mg/dL。抗核抗体、抗 DNA 抗体、抗カルジオリピン抗体、抗アクアポリン4抗体および MPO-ANCA は陰性。脳脊髄液所見:初圧 80 mmH2O(基準 70〜170)、細胞数 1/mm3 (基準 0〜2)、蛋白 60 mg/dL(基準 15〜45)、糖 60 mg/dL(基準 50〜75)。頭部 MRI の FLAIR 像を別に示す。
診断に有用な検査はどれか。
a. 脳波
b. 視覚誘発電位
c. 脳血流 SPECT
d. 頸動脈超音波検査
e. 反復誘発筋電図検査
多発性硬化症の症例。病歴から空間的・時間的多発を認める。
視神経炎がみられており、視覚誘発電位が検査として有用。
まず行うべき治療はどれか。
a. 血栓溶解療法
b. 血漿交換療法
c. 免疫抑制薬投与
d. ステロイドパルス療法
e. 免疫グロブリン大量静注療法
多発性硬化症の急性期の第一選択となる治療。
治療は奏効し、症状は軽快した。再発予防に用いるのはどれか。
a. アスピリン
b. ワルファリン
c. シクロスポリン
d. インターフェロン β
e. 副腎皮質ステロイド
再発予防効果がある。