66 歳の男性。胸背部痛と左上下肢の筋力低下のため救急車で搬入された。
現病歴 : 本日午前 11 時、デスクワーク中に本棚上段から書類を取ろうと手を伸ばしたところ、激烈な胸背部痛が突然出現した。その後すぐに左片麻痺が出現し、さらに重苦しい胸痛と冷汗が出現したため、発症から 30 分後に救急車を要請した。
既往歴 :2年前から高血圧症で通院治療中。
生活歴 : 妻と2人暮らし。喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。
家族歴 : 父親は脳出血のため 86 歳で死亡。母は胃癌のため 88 歳で死亡。
現症 : 意識は清明。身長 162 cm、体重 80 kg。血圧 78/62 mmHg で明らかな左右差を認めない。脈拍 108/分(微弱) 、整。呼吸数 18/分。SpO₂ 99 %(room air)。頸静脈の怒張を認める。眼瞼結膜に貧血を認めない。心音はⅠ音Ⅱ音とも減弱しており、胸骨左縁第3肋間を最強とするⅡ/Ⅵの拡張期灌水様雑音を認める。呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。左上下肢に不全片麻痺を認め、Babinski 徴候は陽性である。
検査所見 : 心電図は、心拍数 108/分の洞調律で、肢誘導および胸部誘導ともに低電位で、Ⅱ、Ⅲ、aVf に ST 上昇を認めた。ポータブル撮影機による仰臥位の胸部エックス線写真及び6 か月前に撮影された立位の胸部エックス線写真を別に示す。胸部エックス線写真を見比べながら、研修医が指導医に所見や解釈を報告した。
適切なのはどれか。
a. 「6か月前と比較して胃泡が多くなっています」
b. 「本日の写真では下行大動脈が認められません」
c. 「本日の写真では著しい気管の偏位が認められます」
d. 「6か月前と心拡大の程度を比較するのは困難です」
e. 「いずれの写真でも CP アングル<肋骨横隔膜角>は鋭なので胸水貯留はありません」
撮影条件が違う(立位と臥位)なので、比較は困難。
この時点で可能性が低い疾患はどれか。
a. 脳梗塞
b. 大動脈解離
c. 急性冠症候群
d. 肺血栓塞栓症
e. 心タンポナーデ
大動脈解離の合併症についての問題。
a 左半身不全麻痺を認める。脳梗塞の可能性あり。頸動脈への大動脈解離の波及がが考えられる。
b 最も考えられる。
c 心電図でST上昇。冠動脈への大動脈解離の波及が考えられる。
d 酸素化良好。否定的。
e 頸動脈怒張あり。心タンポナーデの可能性もあり。
治療方針決定のために優先される検査はどれか。
a. 心臓 MRI
b. 胸部造影 CT
c. 冠動脈造影 CT
d. D ダイマー測定
e. 心筋トロポニン T 測定
大動脈解離を見るためです。