56歳の女性。歩行困難と嚥下困難を主訴に来院した。
現病歴:2年前から左上肢の筋力低下を自覚した。1年前から右上肢にも同様の症状を自覚するようになり、自宅近くの診療所を受診したところ、病院の脳神経内科に紹介受診となった。入院精査の結果、筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉の診断を受けた。その後、病院に通院していたが下肢筋力が低下して徐々に歩行困難となった。3か月前からは、しゃべりにくさを自覚した。時々食事でむせることもあった。病院への通院が困難となり、在宅医療への移行を相談するために受診した。
既往歴:健診で高血圧を指摘されたことがあるが、内服治療はしていない。
生活歴:もともとパート勤務をしていたが発症後は退職した。夫と二人暮らし。長男、長女は独立し別居している。
家族歴:父が肺癌、母は子宮癌であった。
現症:意識は清明。身長 152 cm、体重 38 kg。体温 36.6 ℃。脈拍 76/分、整。血圧 108/68 mmHg。心音と呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。神経診察では①眼球運動は正常。顔面の感覚には異常を認めない。②咬筋および口輪筋の筋力は保たれている。③挺舌は可能だが、舌筋には軽度の萎縮とぴくぴくとした不規則な動きがみられる。発声時の咽頭挙上は不良。四肢は右側優位に筋萎縮、筋力低下がみられ、④立位保持は可能だが、歩行は支えがないと困難である。腱反射は上肢で減弱し、下肢は亢進。Babinski徴候は両側陽性。右肩関節は可動域制限があり他動的に動かすと疼痛を訴える。痛覚、深部感覚の異常はない。トイレへの移動には介助が必要だが、⑤排泄は可能である。
検査所見:尿所見:蛋白(−)、糖(−)、潜血(−)。血液所見:赤血球 462万、Hb 12.6 g/dL、Ht 40%、白血球 6,200、血小板 24万。血液生化学所見:総蛋白 6.6 g/dL、アルブミン 3.8 g/dL、AST 26 U/L、ALT 30 U/L、LD 204 U/L(基準120~245)、ALP 68 U/L(基準 38~113)、尿素窒素 18 mg/dL、クレアチニン 0.2 mg/dL、血糖 76 mg/dL、Na 136 mEq/L、K 4.0 mEq/L、Cl 98 mEq/L。CRP 0.1 mg/dL。動脈血ガス分析(自発呼吸、room air):pH 7.38、PaCO2 42 Torr、PaO2 92 Torr、HCO3- 26 mEq/L。心電図と胸部エックス線写真に異常を認めない。
下線部のうち、今後も維持される可能性が高い機能はどれか。2つ選べ。
a. ①
b. ②
c. ③
d. ④
e. ⑤
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症例。
ALSの陰性症状を選ぶ問題。
ALSでみられることが少ない症状を、陰性症状という。四大陰性症状は、眼球運動障害、感覚障害、膀胱直腸障害。
今後の在宅療養に向けて必要な検査はどれか。
a. 頸椎CT
b. 頭部MRI
c. 針筋電図
d. 嚥下機能検査
e. 末梢神経伝導検査
退院に向け、経口摂取が継続できるかどうか知りたい。
ほかの選択肢は、すでにALSと診断されている状態では必要性は薄い。
今後の在宅生活で必要なのはどれか。3つ選べ。
a. 口腔ケア
b. 住宅改修
c. 筋力増強訓練
d. 自己導尿指導
e. コミュニケーションの支援
c 筋力増強訓練は推奨されていない。現在エビデンスがないため。
d ALSでは膀胱直腸障害はみられない。陰性症状。